杉苔と相性の良い土はどれ?長持ちさせるための土の選定
こんにちは!
毎日苔と向き合っている北條です!
「スギゴケ(ウマスギゴケ)はどんな土で育てたらいいの?」、「苔庭はどんな下土で作ればいいの?」という相談や質問を多くいただきます。それだけ多くの人が悩み、疑問に思っているということかと思います。
苔と土の相性について巷には様々な情報がありますが、しっかりとした定説がないことも、悩んでいる人が多くいる原因といえるでしょう。食用の植物の場合は、生産性向上を目的とするため研究が盛んにありますが、苔の場合は食用ではないので、そういった研究もあまり多くされていません。せっかく苔を育てたいと思ってもしっかりとした情報がなければ、挫折してしまう人も多いでしょう。
そのため、ここでは最も一般的な苔の品種であるスギゴケはどの土で育てると良いか、根拠や理由も含め簡単にご紹介します。
【スギゴケの生育に適した土とは】
結論から言うとスギゴケの生育に適した土は黒ボク土といえるでしょう。その他の下土を使った場合、数年のうちに枯れてしまうことが多いように感じます。
もしくはしっかり育っているとしても、維持するためにかなり注意深く観察し都度対処しているなど、非常に手間がかかっている印象を受けます。黒ボク土を使用した場合は、ほとんど手間がいらず水やりさえも植え付け時を除いて必要ない例もあります。
実際に下の写真は黒ボク土に植え付けて30年ほどたったスギゴケです。この間、もちろん手入れはしていますが枯死等は一度も起きていません。そもそも水道がないので水やりも一切していないようですが、とても元気に育っています。
(撮影時期が11月であるため、少し冬の色になっている。春夏は緑がよりあざやか)
また、土の種類を変えた場合のビフォーアフターの写真もご紹介します。こちらは下土が合わないために一年ほどで枯死してしまった苔庭です。
(一年で枯死してしまった苔庭)
しかし、これを相性の良い黒ボク土に変更したところ、2年経過しても枯れずとても鮮やかな苔に育ちました。相性の良い黒ボク土を使用した場合、このようなことは起きにくくなります。
(黒ボク土に替えた苔庭:施工後2年)
このように結果は一目瞭然です。何故黒ボク土が良いのか、その理由についても考えていきましょう。
【苔と土の相性の重要性について】
まずは苔と土の相性について改めて考えてみましょう。苔に相性の悪い土を選んでしまった場合、どういったこと起きてしまうでしょうか。
大きく分けて下記の3点のような事が発生してしまいます。
- 苔の枯死
特にはっきりと出る症状は苔の枯死です。枯死とは言葉通り枯れてしまうことで、一度枯死するともとには戻りません。
- 病気にかかりやすくなる
よくあるものでは立ち枯れ病や赤焼病などが発病しやすくなります。いうまでもなく発病すると枯死につながる可能性があります。
- 年中葉を閉じる
苔は乾燥状態になると、葉をとじてしまいます。苔にも悪影響であることと見栄えも悪くなります。
【土の種類について】
つぎに一般的な土の種類の紹介と、それぞれの特性について詳しく説明します。
◆黒ボク土
[土が取れやすい場所]
関東以北や九州を中心とした火山灰地に多い。
[特性]
多量の有機物が供給されたことで腐食が大量に集積されている。
団粒構造が豊富であることから、排水性、保水性、通気性が高い
性質的にはリン酸吸収率が高くリン酸を作物に対して無効化させる性質が高い。
PHは4あたりの弱酸性である。
ちなみに黒ボクのボクとは、上を歩いた際にボクボクすることから名付けられた。
◆褐色森林土
[土が取れやすい場所]
非火山性山地の落葉広葉樹林帯に山林地帯に多い土。
[特性]
上部は暗褐色の腐食層(A層)であり、下部のB層は褐色である。
上部の腐食層は微生物や土壌生物の活動により、団粒構造が豊富。
◆赤黄色土
[土が取れやすい場所]
西日本を中心とした常緑広葉樹林帯の丘陵地、台地に多い。
[特性]
一般的に赤土等と呼ばれる。
酸化鉄が多く赤色、黄色を呈する。粘土質が多く非常に硬い。
◆褐色低地土
[土が取れやすい場所]
日本全国幅広く存在している。国土の9%がこの土である。
[特性]
酸化鉄の影響から褐色に見える
排水性が高い。
◆灰色低地層
[土が取れやすい場所]
平野部、扇状地の土壌。
[特性]
地下水位が高く鉄分の影響から灰色を示す。
◆真砂土
[土が取れやすい場所]
中国地方等、西部に多くある土。
[特性]
花崗岩が風化し堆積したもの。
その風化度によって性質が変化する。
風化度により、粘性を残した真砂土は通気性排水性が悪い、粘性を失った真砂土は通気性排水性が高い、というように差が出る。造園時によく使われる土である。
【黒ボク土がスギゴケに適している理由】
上記それぞれの土の特徴を踏まえた上で、スギゴケに適した土を見ていきましょう。
スギゴケにはどのような土が適しているのか、その判断要因を簡単にまとめてみました。
①スギゴケは維管束のような機構があり、地中の水分を利用している。
一般的に苔は維管束が無いため、水分は空気中から吸収しているといわれていますがスギゴケは異なります。そのため、下土は保水性の高い土が適しているといえるでしょう。
排水性の高すぎる土壌を選ぶと、スギゴケの生育に必要な水分まで排水してしまい十分な生育は見込めません。特に砂が多分に含まれる下土にスギゴケを植え付けた場合に起こる枯死はこれが原因であることが多いので注意が必要です。
②地下茎を地中に伸ばすため、通気性が高く柔らかい土が適している。
①のようにスギゴケは水分を地中からも吸い上げています。同時に水を求めて地下茎をどんどん土中深くに伸ばします。これはスギゴケ自身の地上での安定にも関係していると思われます。
そのため粘土質等の硬い土であると地下茎が育たずに、地上部のスギゴケも十分な生育は見込めません。これは赤土を下土に使った際によくみられる状態です。
③栄養は不要と考えられているが、腐植酸の豊富な土壌では非常に良い生育をする。
下土には腐植が多分に含まれている土が好ましいと思われます。腐食とは有機物が土壌中で微生物などにより分解を受け、生物学的に合成されたものです。
もともとスギゴケは湿原のような腐食の多い土地から発生した苔です。
スギゴケの下土を選ぶ際にはこの腐植が多分に含まれる土を選ぶことが必須とはいえませんが、その後の生育を考えると好ましいと言えるでしょう。
そして、上記①②③の条件に当てはまる土は黒ボク土と褐色森林土です。ただし褐色森林土はあまり流通しておらず、黒ボク土を使用することが現実的かと思います。ちなみに黒土という表現だと褐色低地土や灰色低地層のことを呼ぶこともあるので注意しましょう。これらは全くの別物です。
【まとめ】
スギゴケは黒ボク土を使用するととても育ちやすくなる事例を何度もみてきました。スギゴケはもともと湿原のような腐食の多い土地から発生した苔であり、根を伸ばし、地中からも水分を多く吸収する特性を持っています。そのため、柔らかくて保湿性もよく、腐食酸が含まれている黒ボク土と非常によくあっていると思われます。
苔庭を作る際は、是非騙されたと思って黒ボク土を使ってみてください。庭の管理が格段に楽になること間違いなしであり、もう苔が段々と減っていく現場を見ることもなくなるでしょう。
本記事を読んで頂き、楽しく愉快で美しい苔のある生活を送って頂けたら何よりです。